佐々 優子
途上国に対して、本当に必要とされているものを作りたい
私は現在、建築開発部の部門長として、JICAの無償資金協力案件や有償の円借款案件の調査や準備調査の業務を行いつつ、民間企業の海外展開支援の営業も担当しています。コンサルタントを志したきっかけは、大学院でインドネシアの都市計画を研究したこと。途上国を支援できるような仕事をしたいと思い、入社しました。以来30年近く、建築と開発の両方の分野で数多くの国際協力事業に携わってきました。
私が仕事で一番大切にしていることは、途上国に対して、本当に必要とされているものを作る、ということです。それぞれの地域で直面している課題や、人々が困っていることに対して、必要性をくみ取った上でプロジェクトを提案し、建築であれば建物という形で解決策を示す。私たちが提供した施設や建物によって、現地の人々の生活が少しでもよくなり、社会の改善や経済が活性化されるきっかけとなることに、仕事のやりがいと面白さを感じています。
内戦で荒廃したスリランカ北部の農業復興の礎となる施設を建設
私たちが携わったのは施設の建設までですが、大学の先生方や内外の研究者にバトンがつながり、さらに地域住民へと復興支援の輪が広がっています。こうした案件を目にすると、「現地の人々に喜んでもらえてよかった」「この仕事をやっていてよかった」と心から思います。
困難に直面したときは「現地の人に必要とされるものを」という原点に立ち返る
海外での国際協力プロジェクトは、当初の計画通りに進まないことも多いです。特に近年は、コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻、円安などの影響で建設コストが上がり、どの案件も予算不足に陥っています。予算の問題以外にも、計画段階では予想していなかった社会・生活環境の変化により、計画を変更せざるを得ないこともあります。また、現地と日本側の意向のすり合わせなど、様々な場面で調整が必要になることもあります。
そうした困難にぶつかったとき、私は常に「現地の人々に必要とされるものを作る」という原点に立ち返ることにしています。例えば、予算オーバーでプロジェクトを縮小せざるを得なくなったら、施設を使う人たちが最低限欲しいものから、使いやすいように作るにはどうすればいいか、と考えます。もともとの想定、理念を実現するために本当に必要なものをまず作り、それ以外のものは後から段階的に整備していけるように対策を考え、現地政府などと交渉し、調整を行うのです。どんなに立派な施設を建てても、現地の人々が喜んで使ってくれて、使い続けられるものでなければ意味がありません。現地の人たちの意向を知り、どんなものが必要とされ、役立つのかを見極めるためには、施設や建物を使う側の人たちの話をよく聞くことが不可欠だと考えています。
自分の知識や経験が世界の人々の笑顔と生活向上につながる仕事
今後の目標としては、先に挙げたスリランカのプロジェクトのように、広い地域に貢献でき、人々の笑顔が見えるような案件をいくつか手がけられるといいなと思っています。
この仕事の醍醐味は、自分の知識や経験が、世界の人々の課題解決や生活向上に貢献できることです。それぞれの国や地域によってニーズは全く違い、プロジェクトの内容も様々です。文化施設を作るときは舞台芸術の専門家と一緒に、地域の文化振興に役立つ施設のあり方を議論するなど、プロジェクトごとに毎回、何かの分野について専門家になります。いろいろな国で様々な文化を学びながら、新しいことに毎回チャレンジする。何年たっても新しい学びや発見があり、奥が深く飽きない仕事だと思います。